まずは日本の馬たちを
今日(2022/5/17)現在のJRAリーディングサイアーランキングを、少しだけ見てみたいと思います。それぞれの父も載せてみます。
- ディープインパクト(サンデーサイレンス)
- ロードカナロア(キングカメハメハ)
- ドゥラメンテ(キングカメハメハ)
- ハーツクライ(サンデーサイレンス)
- キズナ(ディープインパクト)
- キングカメハメハ(キングマンボ)
- ルーラーシップ(キングカメハメハ)
- オルフェーヴル(ステイゴールド)
- ダイワメジャー(サンデーサイレンス)
- モーリス(スクリーンヒーロー)
- ヘニーヒューズ(ヘネシー)
- エピファネイア(シンボリクリスエス)
- ハービンジャー(ダンシリ)
- リオンディーズ(キングカメハメハ)
- ドレフォン(ジオポンティ)
現代の血統の源流はアメリカ
米国産馬であるヘニーヒューズ、ドレフォンは当然のことですが、その他、リーディング上位15位以内にいる種牡馬たち、その父系をたどると、ほぼ全てがアメリカ源流の血統です(さらに遡ると、英国に行き着いていきますが、本稿ではここ20年程度を目安に話します)。
1991年、サンデーサイレンスの導入により、血統勢力図はあっという間に塗り替えられました。中央競馬黄金時代を築いた、その基礎にいたのが彼であることは、誰もが頷けるところでしょう。プライムステージが勝った札幌3歳ステークスを皮切りに、13年連続リーディングサイアー獲得等、種牡馬として数多くのタイトルを得るにいたりました。
現在のリーディングサイアーである、ディープインパクト。その競走・繁殖両面における偉大な功績から、惜しまれつつ世を去りましたが、サンデーサイレンスの成功の凄さは、その比ではなかったと、個人的に思っています。なぜならサンデーサイレンスは、過去にノーザンテーストの隆盛により、ある程度の下地が整っていたとはいえ、まだまだ日本の繁殖牝馬のレベルが高くない中で、どんな牝馬に種付けしても、よく走る産駒を出せたからです。
ディープインパクトの種牡馬キャリアがスタートしたのは、父のキャリアスタートから16年後。この間、ノーザンファームに代表される、日本の生産者たちは、サンデーサイレンスの活躍で潤った、その利潤を海外の良質な繁殖牝馬の購入に充て、繁殖牝馬の質の底上げに成功している。その上で、才能ある競走馬たちが種牡馬となり、それら牝馬と交配された。そう考えていくと、ディープインパクトの大成功は、父サンデーサイレンスの成功に裏打ちされているわけです。このあたりの正確な分析は、いわゆる血統評論家の方々に任せるとして、このような感じを肌感覚として持っています。
その源流のアメリカは今?
日本競走馬の源流、と私が呼んでいるアメリカ合衆国。今現在のリーディングサイアーランキングは、どのような勢力図でしょうか?
- イントゥミスチフ(ハーランズホリデー)
- カーリン(スマートストライク)
- ノットディスタイム(ジャイアンツコーズウェイ)
- クオリティーロード(イルーシヴクオリティ)
- マニングス(スパイツタウン)
- アンクルモー(インディアンチャーリー)
- パイオニアオブザナイル(エンパイアメーカー)
- ガンランナー(キャンディライド)
- ストリートセンス(ストリートクライ)
- コンスティテューション(タピット)
- タピット(パルピット)
- マクリーンズミュージック(ディストーテッドヒューマー)
- アメリカンファラオ(パイオニアオブザナイル)
- スパイツタウン(ゴーンウェスト)
- マリブムーン(エーピーインディ)
生産国、競走国等、測る尺度が違うので、全米繋養&欧米での賞金でソートしてみました。
1位はあっという間にスターダムに躍り出た、イントゥミスチフ。近年では、ライフイズグッドの圧倒的なパフォーマンスに、世界中が驚嘆。ドバイワールドカップでは4着敗退となりましたが、それまでの驚異的な走りに、私は声を失っていました。
3歳春のG2、サンフェリペステークスでは、後にケンタッキーダービーで1位入線するメディーナスピリットに、8馬身差をつけての圧勝。距離も馬場も違うので、タラレバにしかなりませんが、もし怪我をせず、ダービーに出走していたら・・・と思うと、鳥肌立ちませんか?
こんな怪物を送り出したイントゥミスチフ。今年の種付け料は、キャリアハイの25万ドル。無事であれば、おそらく来年は更に上昇することが考えられます。
そして何より特筆すべきは、ガンランナーでしょう。ラニが出走した、2016年のケンタッキーダービー。私も現場にアテンドしていましたが、調教のときから、ガンランナーの走りに魅了され「こんな馬相手に戦わなければならないのが、ケンタッキーダービーなのか」と、半ば絶望感に似た感情を抱かされたことを記憶しています。ダービーは敗退したものの、3歳後半からの大活躍はまさに圧巻。ブリーダーズカップ・クラシック、ペガサスワールドカップを含む、6つのG1を優勝。鳴り物入りで種牡馬入りしました。
初年度産駒の現3歳世代は、まさにガンランナーの産駒が旋風。サンタアニタダービー勝ちのテイバ、アーカンソーダービー優勝のサイバーナイフ、ケンタッキーオークスは敗退したものの、2歳時からブリーダーズカップ・ジュベナイルフィリーズを勝ち頭角を表しているエコーズールー等々、錚々たるメンバーを送り出しています。現時点で、4頭のG1馬を筆頭に、既に数多くのブラックタイプホースを輩出しています。
今年のリーディング情報を見ると、率としては、ブラックタイプ優勝馬、重賞優勝馬、G1優勝馬の輩出率、そして産駒数に対するそれら優勝馬の数の比率が、全米で他馬を抜いて全部門で1位。つまり、ブラックタイプ優勝馬を産駒数で比較すると、イントゥミスチフは、優勝馬数は10。これは出走産駒数の3.38%となるわけですが、ガンランナー産駒の優勝馬数は6。しかし、比率としては9.23%。無論、絶対数がまだまだ少ないわけで、10年後のこの数字はもう少し落ち着くはずですが、それでも、新種牡馬の滑り出しとしては、上々でしょう。驚異的。まだ成績が出ない中で、ガンランナーの産駒を手に入れた人たちは、本当に幸運と言っていいでしょう。
本当に数年前までは、タピットがリーディングサイアーで、種付け料は当時世界最高レベルの30万ドルまで上昇したわけですが、現在は11位、種付け料は(それでも)18.5万ドルに落ち着いています。トップとの間には、カーリン、クオリティーロード、アンクルモー等、陥落させるには難しそうな相手が在位中。この変動の大きいところがアメリカらしいし、競走馬としては新馬レベルしか勝てなかったマリブムーンみたいな馬が、10万ドル近い人気種牡馬にもなるわけで、ある意味誰にでもチャンスがあるのが、アメリカ競馬、という感じがしています。
次のリーディングサイアーが誰になるのか。どの産駒が日本競馬にマッチするのか、そういった目線でアメリカ競馬を見ていただけると、また見え方が違って楽しいのではないかと思います。