もう、言葉になりませんでした。これこそ、アメリカンドリームでなくして、何でしょうか?

 各メディアで既報の通り、リッチストライク号が強豪を破り、見事に1着でゴールを駆け抜けました。私もレース直後から、その興奮からツイートを重ね、様々な情報を発信しましたが、考えれば考えるほど、やろうと思ってできたことではない、ひとつの奇跡がそこにあることを感じてなりません。少し、まとめてみたいと思います。

血統

父・キーンアイスは、名種牡馬への階段をひたむきに走り続けている、名馬カーリン。母はカナダ産、スマートストライクを父に持つ、ゴールドストライク。現役時代は、ダート1700mのG3を優勝。その他ステークス勝ちもあり、優秀な成績を残しました。リッチストライクの他に、2011年産でG2勝ちのラナーモンも輩出しているので、けっしてこの結果が出たことが、不思議なことではありません。

 血統表をながめると、ブリーダーである、名門カルメットファームにしては、非常に「攻めた」血統だな、と感じます。

 ご覧頂くと分かる通り、スマートストライクのインブリードが3X2でかかっていて、アウトブリードのベストオブベストな配合も一般的になってきた、近年の配合傾向において、非常に濃いインブリードになっています。「売る」という観点では、あまりに濃いインブリードでは売りにくい、という感じがしていますが、この配合を実現させるきっかけ、もしくは情熱があったのでしょう。

所有

 結果として、生産されたリッチストライクは、生産者のカルメットファームに所有され、昨年の夏にデビュー。緒戦は、なんと10頭立てで最下位入線・・・。おそらく、この1戦で、カルメットは見切りをつけたのでしょう、次走のクレーミング競走に登録。

 クレーミングプライスは3万ドル。このレースを見事に勝ったリッチストライクは、現オーナーのRED TR Racingがクレーム。結果として、とんでもない幸運を掴んだのでした。

ちなみにクレーミング競走とは、米国で広く行われているもので、馬・レースのレベルによって、価格が決まっており、購入(クレーム)を希望する馬主・調教師は、レースが始まる前に入札(登録)します。そして、レースが終わると、希望した条件に応じて、出走した馬のクレームができるわけです。ちなみに、1頭の馬に、複数の購買オファーがある場合、最後は抽選になります。

 RED TR Racingの他に、登録した馬主がいたかどうかは定かではありませんが、幸運の緒を掴んだのでした。

ダービーに至るまで

 結局、クレームされたリッチストライクは、その後4戦。いずれのレースでも結果を出すことはできませんでした(負けたレースの優勝馬の中には、後日ケンタッキーダービーの人気馬となるエピセンター、ティズザボムも含まれていました)。

 ケンタッキーダービーのポイントレース、前哨戦となったジェフルビーステークスステークス(ステークスが2回繰り返されるのは、Jeff Ruby Steakhouseという、ケンタッキーで有名なステーキハウスが由来であるため)。ティズザボムが勝ったこのG3で、離れた3着にリッチストライクが入線。きっぷ・・・というより、補欠のきっぷを手にしたわけです。しかし、それでは足りなかった。

 ダービーのみならず、アメリカ競馬には補欠制度があります。Also Eligible(AE)という扱いとなり、AEとしてレーシングプログラムに表記されます。もし出走枠内の馬が取り消した場合、取り消した頭数分だけ、内にそれぞれ枠が寄せられ、その分だけ、AEの馬が、大外に枠を得ることができるわけです。無論、一縷の望みをかけて、AEの対象馬たちは、最後まで調教を進めていくわけで、待つ立場としては、なかなか微妙なメンタルに置かれます。

 で、今年は、イーサリアルロードという馬が登録後に取り消し、イーサリアルロードの外にいる馬たちは「やった!ちょっと内になるぞ」、という感覚であったわけです。リッチストライク陣営は、同時に「やった!入った!ラッキー!」という感じであったわけです。

 余談ではありますが、私個人的には、日本も2歳限定&3歳クラシックにおいては導入すべき制度ではないかと思っています。年齢が限定されるレースにおいては、すべての馬に1回だけの出走機会が与えられます。疾病が原因の取消は、常に起こりうることですが、その分だけ、出られるかもしれない馬に機会を与えることは、馬券売上のうえでも、関係者への機会を与える意味でも、間違いではないと思います。

 新聞や予想がタイヘン・・・という意見もありますが、取り消された馬の枠に、別の馬が入るわけではなく、大外に追加されますし、今どきはインターネットで情報を取得する時代。予想が変わるとしても、ネットで発信できれば、補完できると思います。

夢への扉がひらいた

 過去の3戦から、馬の末脚を信じていたであろう鞍上、サニー・レオンは、ゲートが開いた後も焦ってポジションを取りに行くこともなく、ゆったりとスタート。無理に流れに乗ろうとすることもなく、最後方4番手からレースを進めます(私はこのタイミングでクラウンプライドに注目。良いスタートを切って少し外に張り出し、番手のポジションを取れたクリストフの騎乗に、「よし!」と拳を握っていました。同時に、前で勝負できると気が楽だなぁとも思っていました)。

LOUISVILLE, KENTUCKY – MAY 07: Rich Strike with Sonny Leon up wins the 148th running of the Kentucky Derby followed by Epicenter with Joel Rosario up at Churchill Downs on May 07, 2022 in Louisville, Kentucky. (Photo by Gunnar Word/Getty Images)

 

https://youtu.be/wIYD42DV3Ro

ゆったり後方3番手

 アメリカでは2ハロン毎のタイムが表示されますが、最初の表示は2ハロンが21.78秒。サマーイズトゥモローがレースを牽引していましたが、さすがにこりゃ少し速すぎないか・・・?と思っていたら、その直後にハーフマイルが45.36秒。実況も「とんでもなく速い!」と驚いていましたが、私もさすがに驚愕。

 目が行くのは先頭集団ですが、力尽きはじめたサマーイズトゥモローが落ちていく中、クラウンプライドはそのままのペースを維持。その間、内をメシエにすくわれますが、なんとか食らいついていきます。

 この3コーナー前からの流れにおいても、勝ち馬のリッチストライクは後方4番手をキープ。クラウンプライドは、意地を見せ、先頭で逃げ粘ります。

夢の舞台で末脚一閃

 4コーナー手前から、手綱が激しく動くサニー・レオン。少し勢いがついたところで、ごちゃつく3〜4コーナーはじっと我慢。4コーナー手前で、他馬がバラけたところから、戦闘開始。内を突いた時点で十数頭抜き。サニーの右ムチで叱咤される中、内ラチ前には早めに仕掛けたメシエが。この間、クラウンプライドが力尽きていきますが、そこで空いたスペースにリッチストライクが飛び込みます。

 実はその間に、人気馬の一角・エピセンターが先頭に躍り出ていたわけですが、そこをリッチ強襲。あとは、ただひたすらに馬を信じて、叱咤するのみのサニー・レオンの姿が。一位入線したリッチストライク。ただ、3/4馬身差で追いすがったエピセンターも、負けて強し。結果論ですが、あと一完歩・二完歩、もし追い出しを待てていたら、もしかすると最後の一伸びができたのかもしれません。

全部まとめると・・・

 私が感じたことを素直にまとめていくと、

 ・クラウンプライドは米国馬相手に、真っ向勝負で頑張った!

 ・2着エピセンターは、負けてなお強し!

 ・勝ったリッチストライクの、末脚に脱帽!

 ・そして・・・「出走しないとレースには勝てない!」

 というところ。特に最後については、マルシュロレーヌがBCディスタフを勝った後に、アメリカ人からも言われましたが、出なければ、勝ち負けどころではありませんから・・・。

 

 したがって日本馬には、今後も挑戦を続けてほしいと思いますが、ひとつ提案があるとすれば、出来れば、前哨戦を米国で使ってほしい、と思っています。クリストフの狙いはけっして悪くなかったものの、いきなりの超ハイペースには、さすがにクラウンプライドも面食らったはず。そして、鞍上も久しぶりの米国競馬だったでしょうから、さすがに厳しい展開となった今年のダービーには、なかなか対応が難しかったと思います。

 ただ、日本馬の瞬発力、末脚の切れ味は世界レベルであることは間違いありません。どんな展開にも対応できる、人馬の抽斗を得ることこそが、栄光への最短距離ではないでしょうか?来年のダービーを目指して、私もまた仕事を頑張りたいと思います。そして、ふたたびケンタッキーダービー出走馬の陣営に招かれることを願っております笑