タイトルホルダーの宝塚記念だった

この夏、日米間のコロナウィルス水際対策が緩和されたことで、比較的自由に渡航できるようになりました。以前は、同じ飛行機に感染者がいると、みなし感染となり、入国時に2週間の隔離を余儀なくされていましたが、それがなくなり、また私が渡米する直前には、米国への再入国に対して、コロナウィルスの陰性証明が必要なくなったため、日本国民における規制は、ほぼなくなったと考えていいと思います。

これに乗じて、私も3年ぶりに帰国することが出来ました。2週間ほどの滞在の中で、数多くの方々にお会いする事ができました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。

阪神競馬場へ。宝塚記念の一日を楽しみました。

JRパスで乗り放題。数少ない在米邦人の特権です(笑)

外国人や、海外居住が長い日本人のみが購入可能な、Japan Rail Passという、のぞみ・みずほを除く、全JRが乗り放題になるパスがあるんです。今回は、それを使って動き倒しました(笑)

その使い倒し第1弾は、阪神競馬場&宝塚記念観戦でした。新幹線降車後、新大阪駅構内を歩いたり、阪急電車に乗ったりするなか、アメリカにいたときとは比べ物にならないほどの人いきれにまみれ、さすがに私も生命の危険を感じましたが、無事に仁川に到着しました。

熱いけど暑い!

久しぶりの日本競馬を体感し、感じたことは「熱いけど暑い!」でした。

やはり他国の競馬と比較しても、日本競馬ファンの持つ熱量は、異常と言っても良いくらいのレベル。ここまで多くの競馬ファンが押し寄せる競馬は他にないでしょうし、中央開催のみならず、夏のローカル開催でも万単位で来場者を得られるエンターテインメントは、早々ないであろうと思います。

宝塚記念前のスタンド。強烈です。

競馬を仕事にすることで、馬、競馬、競馬場に対する見方が変わってきましたが、今回も「どうにかならないかなぁ」と思ったことがいくつかありました。これからの数回、関係者のひとりとして、それらを提言として書いてみたいと思います。

とにかく暑い。暑熱対策への議論はし尽くされたのか?

パドックは大きな問題なのでは?

パドック。ミストが出ているのが見えます

こう書くと、JRAやNARから苦情が出そうにも思いますが、馬券の売上に直結するひとつの施策は、パドックです。ぐーるぐる、ぐーるぐる回ります。約20分くらいでしょうか?

なぜここまで回るのか。見れば見るほど、ファンの方々の心理に迷いが生じ、馬券の取捨選択に迷うのです。迷うと何が起こるのか。馬券の購入点数が増えるのです。

5頭選んだけど、どうしようかなぁ。。。見れば見るほど、みんなよく見えるなぁ。。。

こういう心理状態に陥ったことはありませんか?みんな勝ちに来ている馬たちですから、見ていると、どんどん迷いを産んでくれるのです。まぁ、取捨選択には苦労しますよね(笑)

私の観点からすると、この暑いヒートアイランド・日本における、夏競馬でパドックを長時間周回させることに、いささか疑問が残ります。

ちなみに、米国競馬の平場は1周したらおしまい。重賞でもブリーダーズカップでも、2周したらおしまいです。ケンタッキーダービーも例外ではありません。

驚いたことには、常夏のフロリダ・タンパベイダウンズ競馬場においては、周回すらしていませんでした。日差しが焼けるように熱いので、おそらく暑熱対策であろうと思います。

タンパベイダウンズ。これは装鞍所への入場でしたが、この後、パドックでの周回はありませんでした

イレ込んでいないが、みんな発汗著しい

馬の発汗量は、人間のそれと比べて圧倒的に多く、冬場はあったかい毛皮のコートが、残念ながら夏場は逆に作用してしまいます。よく見ると、夏の日本の競走馬は、みんなポタポタと汗を垂らしながら歩いています。

よく馬が発汗すると、その界面活性剤に似た成分の作用で白い泡のような状態になりますが、それらに代表される、イレ込んでいる馬の発汗は、馬券検討の材料としてもマイナス。昔からあまり好まれてきませんでした。

しかし現代の夏場は、ほぼすべての馬が、強烈に汗をかいています。

今回訪問した阪神競馬場は、非常に良いデザインの素晴らしい競馬場ではありますが、反面、美しいパドック上部の屋根が、夏季競馬にはマイナスに動いており、熱気がこもりやすい形状になっています。

例えば米国の競馬場にも設置されている、Big Ass Fans。これは暑熱対策及び、(今となっては)コロナ対策の換気ツールとして、大きな力を発揮しています。

阪神競馬場は、立地条件としては申し分ないかと思いますが、ここは上部に大型のファンを取り付けるなど、できる施策はまだあるように思います。馬のみならず、来場者の方々も、救われる施策になるはすです。

もはやシャワーでは足りないのでは?プールやりましょう、プール!

日本調教師会のご尽力により、競馬場にはシャワーが付きました。夏競馬は本当に地獄のような暑さで、競馬後に倒れてしまう馬も多数。水をかけるとさっと立ち上がるケースもあるようですが、最悪の場合は、競走中に熱中症のために命を落とす馬もいるようです。

暑ければ冷房のかかった室内に移動できたり、冷たい飲み物を飲んだり、アイスクリームを食べたり、団扇であおいだりすることもできる人間と違って、特に競馬場にいる馬にとっては、シャワーなり水をかけられるくらいしか、冷却する手段はありません。

しかし、このヒートアイランド・ジャパンは加熱する一方。水に囲まれた美しい日本の大きな欠点でもある、夏場の湿気。相まって、競走馬にとっては厳しい環境になってきています。

先日、調教師さんと話をしている中で提案してみたのですが、競馬場にプールを作ってはどうかと思っています。もちろん、プール調教用の深いものではなく、身体を冷やすことが目的なので、ウォータートレッドミルのようなもので十分。

水温も少し低めに調整。身体を冷やしてあげると同時に、競走馬の腱は、レース後にはものすごい熱を持ちますから、足元にもいい。どうでしょう、お客さん!(笑)

話題はレースに戻して

空前のハイペースだった宝塚記念で、タイトルホルダーが戴冠

掲示板には、赤いレコードの文字

レースは、明らかな超ハイペースをパンサラッサが作り、勝ち馬となったタイトルホルダーが2番手で競馬を引っ張る格好に。前半1000m通過が57.6。この日の阪神は、前からも後ろからもレースが決まる馬場でしたが、ここまで速いと、いくら離れたグループとはいえ、さすがに前残りは厳しいのかなと思っていました。

まぁ、杞憂でしたね(笑)

坂で一瞬止まったように見え、後続のヒシイグアスに迫られる瞬間もありましたが、登りきったらまた伸びて、最後は2馬身突き放してタイトルホルダーが戴冠。京都競馬場改修により開催場が移った、阪神でG1・3勝の偉業を成し遂げました。これで、胸を張って凱旋門賞へ向かうことができるでしょう。

自分の道を自分のペースで走れ!

Jacques-Louis David, The Coronation of Napoleon

参考:シャフリヤール善戦!2022年プリンスオブウェールズステークス

10月最初の日曜日に、凱旋門賞は行われます。

今年はドウデュース、はたまたステイフーリッシュまで参戦するという、日本馬だけでも混戦の模様を呈しています。

あえてタイトルホルダー陣営によるとすれば、日本馬は、他国の馬と比較してもスタートが抜群に速い。ヌーヴォレコルトも、参戦したBCフィリー&メアターフでは最速のスタートでした。これは、JRAのゲート試験に代表される厳しいルールのなかで調教されてきた、開花した馬の素質が影響していると思いますが、この特性を活かさない手はない。そして、ハイペースでも逃げ切れる脚があることを、宝塚記念で証明しました。

スタートを決めて先手を取る。ヨーロピアンのペースに合わせず自らのペースを守る。逃げ切る。

これしかないと、個人的には思います。

前で競馬できることは、非常に大きなアドバンテージ。日本馬として初の戴冠を目指してほしいと思います。