「おっ!今年の顕彰馬選定の結果が出たか!」

ニュースアプリの記事の見出しを、楽しみにしてクリックして、驚きました。

「アーモンドアイは選定されなかった」

数多くの競馬ファン、関係者が、この結果を目の当たりにした時に、絶句したのではないでしょうか?
私も競馬界の仕事を頂いていますが、続ける動機は、自らが競馬ファンでもあるからです。絶句したことは言うまでもありません。

牝馬3冠、天皇賞秋連覇、ジャパンカップ2勝、ドバイターフ優勝を含む、史上最多の芝G1・9勝。
3冠達成だけでも、なかなかできることではありませんし、天皇賞・ジャパンカップ・ドバイターフは、牡馬混合G1であり、それぞれを圧勝。
過去3頭いた顕彰馬、クリフジ、ウオッカ、ジェンティルドンナの功績に、勝るとも劣らないものであったことは、論を俟たないところです。

ちなみに、アーモンドアイが特に目立ってしまっていますが、同じ得票数で選定から漏れてしまった、キングカメハメハについても、同じことが言えます。

キングカメハメハの活躍は異常だった

G1:NHKマイルカップ・日本ダービーを優勝。神戸新聞杯の後、屈腱炎を発症してターフを去りました。
その活躍は、従来の競馬ファンの常識を覆すもの。NHKマイル〜日本ダービーのローテーションは、松田国英調教師が挑戦し、クロフネ・タニノギムレットが達成できなかったものですが、キングカメハメハはそれをクリア。
成し遂げた2階級制覇は、想像以上に難しい。短いレースから距離を延ばすことは、非常に難しく、短距離はレースも忙しいですし、得てしてペースも速くなるもの。それを、さらに800m延ばして、我慢させるわけですから、毎年そのステップ(桜花賞〜オークス)を踏む牝馬たちは、過酷なローテーションを組んでいくわけですが、NHKマイルからの難しさは、レース間隔も短く、牝馬のローテを超越しています。

そんな状況の中、NHKマイル〜ダービーを制覇したことは、日本競馬にとっても偉大な功績です。また、引退後も種牡馬として、アーモンドアイの父・ロードカナロアを輩出するなど、大きな金字塔を残しました。

なぜ歴史的名馬たちは、選定から外れてしまったのか

機会があれば、記者さんたちにも聞いてみたいと思いますが、なぜ、アーモンドアイ、キングカメハメハの2頭が選定から外れてしまったのでしょうか。

推察1:「たぶん、みんなアーモンドアイとキンカメは選ぶでしょ」

今や、日本馬・日本調教馬の競走レベルは、世界で一目を置かれる存在となっています。
今年のサウジカップ開催、ドバイミーティングでの大活躍は、世界に日本馬のレベルをまざまざと見せつけたと思います。
(余談ですが、海外遠征、特にドバイ・サウジのような第三国で実績を残す意味は非常に大きく、大舞台で勝ったからすごい、ではなく、日本、欧州、北米、豪州と、世界各国で特性の違う馬場をそれぞれ持っている中、後発のドバイ・サウジアラビアという第三国が、世界全体のサラブレッドに対して、ある程度共通のサーキットを提供しているとも考えられ、こういった場所で競馬をし、勝つことは、大きな意味があると個人的に考えています)

したがって、私が想定する一つの仮説は、「おそらくみんながこの2頭は選ぶから、自分は自分の好きな馬を書いて投票しよう」という、ある意味における綱引き理論というか、そういった心理が働いてしまったのではという推察です。

圧倒的な実績を残した2頭ですから、この心理がはたらいてしまうことは、想像に難くないと思います。

推察2:あの馬もいい、この馬もいい、目移りする現象

この30年の間に、飼養管理のレベルは飛躍的に向上。G1を複数回優勝する馬が、毎年何頭も出てきていますし、昭和の時代に比べると、バーゲンセールかと言わんばかりに、牡牝ともに3冠馬が数年おきに誕生。昔のように、1頭1つ勝てればすごい、というような状況でもありませんし、また鮮烈な印象を残す馬も数多く出てきているため、取捨選択に非常に困ると思います。

キングカメハメハもすごいですが、競走馬の実績としても、はたして得票数では劣って3番目に入ったモーリスが、キンカメ大王に劣るか。もちろん守備範囲の距離が違うとは思いますが、国内マイルを総なめにし、天皇賞秋まで優勝。さらには香港でも香港マイル、チャンピオンズマイル、香港カップと、距離の違う、重要なG1を3つも勝っているわけで、種牡馬としての実績はまだまだこれからだとしても、競走馬としての実績は、殿堂入りには十分なレベルであると言えます。

あの時代に、G1を4つも勝つことは難しかった、私の愛したマヤノトップガンは、殿堂入りの機会を逃したわけですが、せめてあとに続く馬たちは、それなりの評価に浴してほしいものです。

推察3:投票者たちが、本当にアーモンドアイ・キンカメ大王を評価していなかった

あまり考えたくないことではありますが、日々競走馬の横にいて取材を重ねる記者さんたち、または競馬で朝から晩まで実況されるアナウンサー、その他諸々の投票者の方々が、何らかの理由で、本当に上位2頭を評価していなかった、ということです。

正直、私個人は、強すぎる馬が苦手です(笑)
黄金時代のナリタブライアン、マヤノトップガン、マーベラスサンデー、近年で言えばオルフェーヴルもそれに近いですが、彼らのように、圧倒的な強さを持ちつつ、脆さ・儚さも兼備しているような馬が好きなのです。
シルバーコレクターにも困ったものですが、頂点に立ち続ける馬に対しても、少々抵抗があります。
父としてのディープインパクトは圧倒的ですが、それよりも2位のキンカメ大王、リーディングサイアーにはなれないけどいい馬を輩出し続けるハーツクライ、少し昔では、サンデーサイレンスよりも、常に2位のブライアンズタイムに愛着を感じるのです。

したがって、現役時代のアーモンドアイは好みではなかったですし、最近ではコントレイルもあまり好みとは言えません。しかし、彼らの強さは純粋に評価したいですし、偉大な功績を残してきたことに変わりはないので、正当に評価はされるべきと考えます。

もちろん記者・アナウンサーさんたちにも、新陳代謝はありますから、全員が全員、競馬をよく理解しているべき、とは思いませんが、ある程度の判断力を持ち合わせていれば、こうはならなかったのかなぁとか、考えてしまいます。投票者の選定についても、正当性の証明できる要素は設定されているべきでは、とは思っています。

じゃあ、君のいるアメリカ競馬はどうなの?

こういう声が聞こえてきそうです(笑)

アメリカは少しやり方が違います。細かいところはこちらでご確認頂けるので、英語が不得手な方は、ぜひGoogle翻訳等を活用して、ご覧になって頂ければと思います。

https://www.racingmuseum.org

選定候補馬のカテゴリーが分かれる

まず競走馬は、最近の馬(引退後5年経過し、25年目まで)に対する顕彰と、25年以上経過した馬は、Historic Review、つまり時間の経過した馬に対する顕彰と、2つに分かれています。

選定プロセスもメンバー構成も違う

選定方法としては、12名以上で構成される、対象馬を指名する委員会があり、そこで投票パネルを作成します。パネルとは、投票者を指します。

投票者は、現役または引退した記者、編集者、コメンテーター、競馬研究家等で構成されるので、ほぼ日本と同じです。

全ての投票権者及び一般の推薦で、委員会の検討に供すべく候補馬のリストを選定します。
過去3年間の選定の中で、最終候補に残りながらも選定されなかった馬たちは、自動的にこのリストに上がってきます。競馬博物館職員が、各候補者の適格性を確認。指名委員会へ提出する資料を作成します。

その後、委員会メンバーは、投票パネルで検討するに値すると評価した馬を選定し、最終投票に進めます。

指名委員会の3分の2の承認を受けた最終候補馬は、投票パネルによって検討され、パネルメンバーは、ふさわしいと認識した馬全てに投票します。そして、過半数以上(50%+1票)を超えた馬は、全て顕彰馬として選定されます。

(過去、私が言及したミエスクも、ちゃんと殿堂入りしています)

Miesque, Breeders’ Cup Mile

さすがは選挙がお祭りの国

顕彰馬選定方法も、アメリカ合衆国大統領を選定する流れに似ている気がして、さすが、選挙が国を挙げてのお祭りさわぎという土地柄だなぁという感じがします。単にお祭りさわぎしているわけではなく、大きな偏りや、選定されるべき馬が漏れないように、という配慮であろうと思います。

日本は、おそらく投票用紙が配られて、そこに記入するだけ、というプロセスかと思いますが、私みたいに偏った人間であれば、「キンカメよりもトップガンでしょ!」「サイレンススズカが選定されないのはおかしい!」となりますから(笑)、やはり段階を踏んで、選定対象となるべき馬を適切に絞り込む作業は、大切であろうと思います。

とはいえ、今から今年の結果が覆ることはありません。

JRA賞も同様ではありますが、来年以降、より納得度の高い選定が行われるよう、制度を変更していく流れが出来ればいいなと、切に願うところです。