多くの競馬ファンは、恐れおののいたのでは。

大ニュースになりましたね…じゃいさんの馬券訴訟。

「おいおい!経費にならないのかよー!」

という声が聞こえてきそうですが、そうなんです、現在の税法上では、結局認められないということなのです。これに対し、じゃいさんは訴訟を準備。費用はファンの方々にクラファンで募り、国税不服審判所に不服を申し立てることになったそうです。

個人的には、今現在の法律においては、勝つのはかなり難しいのではないかと思います。国相手の訴訟という点もありますが、以下が私の見解です。

アメリカにはギャンブルの「負け」を「経費」とみなす法律がある

私の居住するアメリカ合衆国の確定申告には、「Gamble Loss (ギャンブルロス)」という項目があり、確定申告を行なう際に、負けた金額を申告できる制度があります。

今回のじゃいさんの訴訟をきっかけに、ちょっと調べてみましたが、米国公認会計士の日本人が、地元フリーペーパーに寄稿していたものを見つけたので、下記に記します。

以下、出典元より転記:https://www.us-lighthouse.com/work/tax-accounting/q-and-a-account-2021.html


先日、カジノで賞金を得ました。この賞金を確定申告時に申告する必要はありますか。また、税金面で何かアドバイスはありますか。

申告の基準

通常、ギャンブルで得た賞金が600ドル以上、あるいは賞金が賭け金の300倍以上の場合、ギャンブルの主催者から「Form W-2G」という収入証明書のような資料を受け取ります。「Form W-2G」は、企業が従業員に発行する「Form W-2」に似ていて、氏名、住所、納税者番号、ギャンブル所得額、源泉徴収税額などが記載されています。
ちなみに、ギャンブルの所得は基本的に24%が源泉徴収されますギャンブルの主催者は、連邦政府に誰にいくらの賞金を出したかを報告しています。「Form W-2G」を受け取ったら、確定申告で連邦所得税源泉徴収額として、「Form W-2G」を申告してください。

非居住者の賞金

では、税法上のアメリカ非居住者(日本居住者)が賞金を得た場合はどうでしょう。一般的に、アメリカで日本の個人や法人が得た所得や賞金は、アメリカの法律により30%が源泉徴収の対象になります。しかし、日本とアメリカには日米租税条約という税金に関する協定が結ばれています。この条約が適用される場合、源泉徴収された税金の免税措置が取られます。今回のケースは、税金の還付(免税)の対象です。
アメリカ非居住者の還付手続きは、まず、この非居住者がアメリカで賞金を得た後、賞金金額の30%の源泉徴収が行われ、「Form 1042-S」が発行されます。「Form 1042-S」は、外国人がアメリカで源泉所得を得た際に、源泉所得税をすでに徴収したことを報告するフォームです。次に、非居住者用の確定申告書「Form 1040NR」を作成し、IRS(内国歳入庁)に提出することで、還付申請となります。その際に、「Form 1042-S」も添付する必要があるので気を付けましょう。
ギャンブルで得た賞金は、基本的には課税対象です。しかし、税法上のアメリカ非居住者は、申告をすることで源泉徴収された分の税金の還 付が受けられるので、積極的に申告手続きをすることをお勧めします。

負けた場合

一方、ギャンブルで負けた額も、最高で勝った金額まで項目別控除を申請できます。勝っても負けても記録を残しておくのが大事です。ブラックジャックのようなカードゲームでもカジノに頼めば負けた金額を証明してくれることもあります


使ったが、ちゃんと控除された

私も一度だけ使ったことがありますが、その時は、デルマー競馬場で1,000ドル以上の配当を得て(つまり、日本でいうところの10万馬券)、そこでIRA(米国歳入庁)のフォームを発行されてしまったため、申告せざるをえなくなったのです。
その時には、自らが購入したハズレ馬券を元に、書類に記入して、確定申告を行ないました。

結果、恐る恐るではありましたが、ちゃんと控除されていました。

であるならば、日本でも同様に、控除がなされて然るべきではないでしょうか?

でもアメリカはギャンブルが合法

そうなんです。アメリカでこれが許されるのは、ギャンブルが、特に競馬は合法だからです。そのため、確定申告欄に、デフォルトでギャンブルロスが設定されているわけです。それならば、使わないわけにはいかない。

日本には早々いないと思いますが、アメリカにはプロギャンブラーが多数存在します。私の知人にも(既に足を洗いましたが)、日本人プロフェッショナルギャンブラーがいます。
聞いたら、「スロットの目押し」だけで家1件以上建つような収入を毎年得ていたそうです。彼の場合は、これではまともな人生(人並みに苦労をしてお金を稼ぐという意味)は歩めないと思って、足を洗ったそうです。

ちなみに、以下がNTRA、全米サラブレッド競馬協会が提供しているNHC、ナショナルホースプレイヤーコンテストのウェブサイト。画像をクリックいただくとリンク先へ飛びます。

アメリカだからこそのロビー活動

アメリカは、ロビー活動が非常に活発。様々な業界の人間たちが、キャピトル・ヒルに集い、それぞれの業界・会社等への便宜を図ってもらうべく、ロビー活動を行なっています。
これは、政治がより身近な(感じのする)アメリカだからこそ、のアクティビティであろうと思っています。

https://www.ntra.com/legislative-tdn/

お時間のある方は、Google翻訳等を活用していただいて、ご一読いただければと思いますが、国会議員たちへの競馬への理解・啓蒙活動、税制面の優遇、その他諸々、活動内容は多岐にわたります。

レーンズエンドファームのビル・ファリッシュ氏等、業界の重要人物たちが名前を連ねています。生産者、馬主、騎手、調教師等、業界での仕事を生業としている人たちへのメリットももちろんですが、たとえば、調教中の骨折が多くなり問題になった際も、それを動物虐待だという人への誤解を解く作業等、草の根の活動も行われるわけです。

アメリカで使うムチのパッド部分が太くなったりしたのは、騒いだ政治家によって起こった業界内の変化だったと記憶しています。デメリット?と言っていいのかわかりませんが、そういった側面もありますね。

日本ではどこまでできるか

基本的には、ギャンブルは違法である日本。このロビー活動のようなことが、日本ではどこまでできるでしょうか?
公営競技は「国や自治体に税金を納める」という立て付けのため、ギャンブルを開帳できるわけですが、もちろんカジノは違法ですし、パチンコも合法という理解でありながら、分解していくと違法じゃない?というグレーゾーンを拭いきれないまま、存在しているわけです。

パチンコは、景品として渡された「金(きん)」を、近くにある交換所で現金で買い取ってもらうことにより、お金にすることが出来ます。
第三者が介入することで、ギャンブルの違法性を排除しているという、スーパーグレー。射幸心を煽っている以上、「これやっぱり違法じゃないか?」と、この稿を書きながら思い始めてきましたが笑、今のところ、パチンコを規制できる法律はありません。

ギャンブルロスを、どう証明するのか

つらつら述べてきましたが、じゃいさんの件を勝訴に導けるかどうかは、ここが大きなポイントかと思います。

ネット投票については異論がないと思います。
投票内容・払戻内容が、全て記録されているので、これ以上の賭事記録はありません。その中で「儲けた分については課税されます」ということになれば、納得度は高くなるのではと推察します。

問題は、競馬場での現金投票です。

アメリカは少し緩め

私はハズした馬券は、そのままとってあります。なぜなら、申請する時は、それがいちおうの証拠となると思っているからです。
ただ、アメリカの場合は米国公認会計士、CPAが承認するかどうかがポイント。付き合いの長いCPAであれば、「この人がズルすることはないだろう」という前提のもとで、ギャンブルロス金額を承認してくれるでしょう。万が一、怪しいと思っていても、1度くらいなら証拠を出せ!とは言わないはずです。なぜなら、ハズレ馬券は、誰が買ったかという原本証明性が非常に低いからです。

ハズレ馬券拾っておけばいいじゃん説

ハズレ馬券は、ほとんどの場合は捨てられます。1日が終わった後のブリーダーズカップの特等席等を歩き回ると、何千ドルもの単勝馬券がゴロゴロ転がっています。これを拾って帰れば、証拠になると思われるでしょうが、所得と比較したら現実的ではないのは明らか。拾えばいいだけの証拠は、証拠とはなりえません。

日本も、おそらく馬主席周辺では、同じような金額の馬券が転がっていると思います。

出来ないと思うけど

前述のロビー活動をする以外に、実現は難しいと思いますが、ひとつ考えられるのは、現金で馬券を購入する際に、レシートを発行してもらうこと。マイナンバーカードと紐付けたりすることもできそうですが、カード紛失の可能性を考えると難しい。
となれば、レシートがベターなのかなと思います。馬券に印字されるQRコードと同じものをレシートにも印字し、それを照合するアプリをJRAが作れば、原本証明ができるのではと思います。

生年月日を入力することも考えてみましたが、一般席における発売セクションは、いわゆる鉄火場。

有馬記念の中山競馬場で、「おら!早くしろよ!締め切られちまうじゃねぇか!!」という怒号を、何度も聞きました笑 私も2回くらい、目の前で締め切られたことがあるので、ピリピリしているムードの中で生年月日を入れるなんてありえません。
(ちなみに、ベルが鳴った後も1分くらいは購入できますよ)

ギャンブル違法の国でどこまで戦えるか

じゃいさん、現時点でギャンブルが違法の日本において、今回の訴訟はかなり勝率が低いのではないかと思いますが、課税金額を算出するための数字が、払戻金のみという点については、やはり疑問が残るところです。また、既にテラ銭から、国庫納付金が徴収されているわけですから、二重課税になるのではという点についても、クリアにしてもらいたいところです。

ただギャンブルは、可処分所得から拠出された金額をベースに楽しむことが基本として考えられているはずで、それが一般的ではないでしょうか。
プロギャンブラーでも、日本では本件を戦うには厳しい状況なのに、プロ馬券師でもない、じゃいさんが、これを事業経費として計上することを争うのは、難しいのではないかと思います。
(まだプロ馬券師として、馬券以外ではほとんど収入がないことが証明できれば、可能性はギリギリ残されるのではないかと推察します)

ただ、本件は、現在の競馬を取り巻く税制に一石を投じるものであることは間違いありません。行く末を見守りたいと思います。