西海岸最強馬にして「コーチ」が引退

ハリウッドゴールドカップ3連覇を含む、G1 7勝。カネヒキリが優勝したジャパンカップダートにも遠征した、ラヴァマンがついに完全引退。

完全引退と書く理由は、競走馬としては2010年頭に引退。その後は、所属していたダグ・オニール(Doug O’Neill)厩舎でリードポニー「コーチ」として繋養され、朝の調教時の若馬たちのサポートを行なったり、同厩馬がケンタッキーダービー等へ出走する場合は、帯同馬として同行。アイルハヴアナザーが出走した際は、ゲート裏まで帯同。厩舎にとって、重要な役割を果たしてきました。

 

ご存知の通り、アメリカは厩舎にリードポニーを置いているところも多く、ラヴァマンのように、同厩のせん馬(去勢された馬)が繋養されることもあれば、調教されたポニーがレンタルされていることもあります。
それに騎乗するのも、騎手や所属の調教助手の場合もあれば、調教師の場合もあります。いずれにしても、ポニーには、エネルギーの有り余った若馬たちを、無事に馬場までリードしていく大事な役割があります。

以前、藤澤和雄元調教師が著作の中で、先輩についていくことで、若馬たちは歩き方・走り方を学んでいくと言われていましたが、その意味において、まさにラヴァマンは最高のコーチ。毎朝の業務のおかげで、今に至るまで若々しい身体を維持。

来月のブリーダーズカップ・クラシックにおいて、同厩舎のホットロッドチャーリー(Hot Rod Charlie)の出走をサポートすることが、最終業務。コーチとして12年のキャリアに、幕を下ろすことになります。引退後はオールドフレンズファーム(ケンタッキー州の養老牧場)に繋養されるそうです。ここには、日本でも種牡馬として繋養されたシルバーチャームが、また過去にはウォーエンブレムもここで余生を過ごしました。

ここでの生活が、ラヴァマンにとって豊かな日々であることを祈ってやみません。

ラヴァマンは最高の事例なのではないか?

アメリカにおける文化

私はアメリカに引っ越して、15年目になります。移転した当初は、英国への留学経験があるも、日本で過ごしてきた時間が多かったので、何かにつけて「日本だったら」と言って、周囲を困らせていた時期がありましたが、アメリカの文化になじんでくれば、今度はそれがスタンダードになってくるのです。
(私の場合は、ビザの関係で4年ほど帰国できなかったことも、功を奏したかもしれません)

私が感じる、日本とアメリカにおける文化の違いは、

  • できる限り合理性を追求する
  • 細かいことはあまり気にしない
  • 比較的、人と動物に優しい
  • 歴史と新しさがうまく混在できる

というところかなと思っています。

例えば、中華料理のファーストフードとして、全米で見かけるパンダエクスプレス。ここは、2つの料理+ご飯もの or 炒麺のどちらかを選べるわけですが、もう、上記4つが全部含まれている感じです。

スピード重視(セントラルキッチンである程度仕込まれている様子)、量も細かく測らない大雑把、そっちのほうがお得感もあってお客も喜ぶだろうという対応、そして、伝統的な料理+新しい料理が混在しているわけです。

もちろん、中国人はアメリカでもどこでも、たくさんいます。しかし、アジア系が圧倒的に少ない地域においても、パンダエクスプレスの存在感は大きい。どこもきれいな店舗で、人種を問わず、ひっきりなしに入店してきます。

別に、パンダの宣伝したいわけではないのです(笑)あくまで一例です。

そもそも馬文化

欧米は騎馬民族の文化。馬は、農耕用の労力ではなく、自分たちの生活をつなぐパートナーでもあったのです。その過去があるからか、アメリカ人たちが注ぐ馬への愛情と、そのケアについては、群を抜いている感があります。

競馬に関しても、彼らのケアと調教技術は目をみはるものがあります。

近年、サウジアラビア・ドバイ等における第三国で開催される競馬において、日本馬は非常な実績を残していますが、ドバイワールドカップはアメリカ調教馬の独壇場です。しかし米国馬が調教されている施設のほとんどは、「坂路もプールもウッドチップコースも角馬場もない」のです。リラックスするための逍遥馬道なんて、1ミリもありません。でも、一流のレースを勝つために仕上げてくるのですから、そのスキルたるや・・・。

獣医さんたちも、よく馬を分かっていますし、良い成績をあげることは、その馬の未来を決めることも分かっていますから、遠征時はギリギリまで馬のために力を尽くしてくれます(もちろんルールを遵守し、馬のウェルフェアも考慮されています)。

翻って、日本は農耕民族。生活の細微に至るまで、四季を感じ取りながらお米を作り、農作物を育て、その時その時の領主たちに守られながら生きてきました。馬は乗るものではなく、農耕馬としてひく文化。騎馬民族の人間たちから、まだまだ学ぶことは多いと思います。

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引退馬問題に取り組むなら現役馬にも活かすべき

現在の引退馬活用の道

父母に。

競走を引退した馬たちの一握は、父親として子を送り出す種牡馬、母親として産み育てる繁殖牝馬、いわゆる繁殖馬として次のキャリアに進みます。それでも、いい子(つまり脚の速い子)が出ないと、繁殖生活から引退して乗馬になったりします。人気のある馬は、功労馬の展示対象として、余生を全うすることもできます。

人を乗せる

もちろん繁殖生活を送ることなく、すぐに乗用馬になるケースもありますが、それもまた一握り。人間を乗せて言うことを聞く従順性や、乗馬用として再調教されるのに適した馬でないと、乗用馬になることすらかなわない、というのが実際。そして大多数の人は、引退馬にお金を出さないので、人間よりも食物を消費し、医療費もかかる引退馬を、繋養し続けることは簡単なことではありません。

セラピーホースとして

今夏、角田晃一厩舎の高野容輔助手(元騎手)に案内していただき、滋賀県にあるTCCセラピーパークを訪れました。引退馬を繋養し、調教しつつ、地元のこどもたちのセラピーホースとしても活用する試み。

こどもたちの目の輝きは美しく、素晴らしい取り組みだなぁと感銘を受けました。

(筆者注:各団体の引退馬活用の取り組みについては賛否両論あるようですが、私は、一歩でも行動する方が偉大だと思っています)

繋養馬の1頭・サトノエトワール
厩舎内

競馬界への提言:引退馬を現役競走馬の調教に活かす

ときに「やれるものなら、やってみろ」という意見を頂きながら、ちょくちょく私は引退馬の活用について提言してきました。もちろん、乗用馬として活躍したりする中で、自らの手でカイバ代を稼いで生活するというやり方もありますが、それではいつまで経っても、「お金を払って乗る人」がいないと成立しないのです。しかし、海外で活用されている例を取り入れられれば、無理なく、十分にやっていけて、多くの馬を救える可能性はあるのです。

アウトライダー制度

日本では誘導馬が導入されていますが、芦毛が好まれるなど、色味の問題があったりしますし、活用のシーンは競馬開催日の全レース以外にない。もちろん平日は乗馬苑で乗馬として、地元の一般市民を乗せるという役目もありますが、それでは馬たちも食べていけない。

そこで導入したいのは、アウトライダー制度です。

アメリカには、カウボーイ文化が根づいていて、未だにカウボーイのコンテスト等が行われています。馬具屋さんに行っても、ウエスタンスタイルの馬具もたくさん売られていますし、人気のスポーツでもあります。

そこから派生したのではと推察しますが、各競馬場にはアウトライダーという人たちが存在し、朝の調教中は警備役に、レース中・調教中における落馬によるカラ馬が発生した場合は、馬を捕まえに行くこともあります。アメリカでは主に、カラ馬捕捉用に初速の速く、丈夫なクオーターホースが使われていますが、サラブレッドでそれを充当することは、けっして不思議なことではないと思います。

日本ではカラ馬を捕まえるのに、人間の力という、涙ぐましいツールを使って止めようとしていますが、馬が馬を止めた方が速く効率的であることは、論を俟たないところかと思います。

これにより、各競馬場で最低4頭〜6頭。JRAで10場40〜60頭、地方競馬で15場60〜90頭の再活用が可能になります。

リードポニー制度

まさしくラヴァマンが行なっていた仕事は、このリードポニー。つまりレースの際に、本馬場入場の手前で出走馬と合流し、ゲート裏まで帯同するものです。

 

想像に難くないですが、馬は馬と一緒にいるときが一番安心します。いくらスキルの高い人間が介在したとしても、馬をなだめるのは、やはり馬なのです。もちろん、これは必須の制度ではありません。人添いのいい馬で、馬添いが悪い馬もいます。馬添いが悪ければ、馬を帯同させるよりも、人間がリードしたほうが落ち着くわけですから、リードポニーをつけるかどうかは、各陣営に判断が委ねられています。

これが実現すると、JRAの10場で最大メイン2場 x 18頭=36頭+ローカル16頭=合計54頭、地方15場合計で202頭、つまり全部で256頭が「再雇用」されることになります。もちろん、彼らの厩務員または騎乗者が必要になりますから、その分だけ人間の雇用及び再雇用が推進されることになります。

私は以前、東京競馬場の乗馬センターで乗らせてもらっていましたが、参加されている方のほとんどが、地元府中市民のおばさまたちでした。
腕力は非力な彼女たちが、乗馬しつつ馬の世話をして、厩務作業も行えるわけですから、軽速歩ができて馬を操れるスキルがある地元の一般市民の方に、有償で作業を行なって頂ければ、十分対応が可能かと思います。

推測ですが、おそらくリタイアされた方たちの中には、あくまで娯楽のために乗馬を楽しまれている方も多いと思います。リードポニーのスキルは、おそらくウェスタンスタイルの牧場などで最初に身につけねばなりませんが、まず速歩まで簡単に出せる人であれば、十分素質アリです。

厩務作業を行う、いわゆるグラウンドスタッフだけでも、十分な加勢。フレキシブルに考えることが、とても大切だと思います。

おおよそ400頭救える

単純計算をすると、これだけで400頭は救うことができます。そして、400人近くの雇用を発生させ、もし厩務員と分けるならば、その1.5倍程度の雇用&再雇用が可能になります。雇用される人間が若手の場合、将来の調教助手・厩務員候補として、人材育成することもできます。

問題は防疫法

日本ほど清浄な国は少ない

通常、輸出入するときは、各種検査を行った上で、1・2週間前後、場合によっては1ヶ月ほど検疫を行った上で、初めて馬を輸出することができます。

これについては、どこの国に対しても輸出入できるわけではなく、国家間で取り決めた衛生条件というものがあり、これを締結している国でなければ輸出入することができません。ちなみに、輸出と輸入は別なので、輸入できても輸出できない国もあります。

その中で、日本はほぼクリーンと言えるほど、清浄な国なのです。

馬にとって致命的な感染症である伝貧、馬伝染性貧血。2017年の清浄化以降、感染は報告されておらず、家畜伝染病予防法による検査は終了していて、今は輸入馬に対する検査を厳格に行なっています。

そのため、日本から輸出される馬たちは、基本的に「検疫の結果、何の症状もない」という旨の書類を整えるだけで輸出することができます。

問題は競走馬を取り巻くルール

私の単純な計算で400頭ほどの馬を救うことができる、アウトライダー・リードポニー制度ですが、大きな問題が一つあります。

基本的に日本の厩舎には、防疫の観点から、競走に供される馬以外を入厩させることができません。つまり、JRAトレセンや地方競馬の厩舎には、競走馬以外が滞在できないのです。

(例外として扱って問題ないかと思いますが、例えば大井競馬場には競走馬の厩舎以外に、誘導馬(クライズデール2頭含む)の厩舎が同じ地区に存在します。その厩舎の前を通って、競走馬たちが調教やレースに向かいます)

防疫上の問題、確かにあると思います。

伝貧のみならず、ときに馬インフルエンザ等、流行性の疾病が巻き起こる可能性は常にはらんでおり、それをワクチンで抑制している情況です。

しかし先述したとおり、世界でも有数の清浄国・日本。防疫の問題があるとは思えません。この、制度改革がなされていけば、十分に多くの馬を救える可能性が出てきます。少なくとも、劣悪な環境に置かれ、亡くなるまで飼い殺しにされる馬は、減らせるはずです。

炎上してもいいから、提言し(お金があったら行動する笑)

まず明確にしたいのは、炎上狙ってません。そして、コレで名声を上げたいわけでもない。

本当は、お金があるなら即行動に移したいです。ロビー活動してもいいし、引退馬施設や人材育成施設もどんどん作りたい。

日本における引退馬の問題はとてもセンシティブで、ファンの「馬がかわいい」という感情と、「処分されるのがかわいそう」という感情がごっちゃになって、一歩踏み出すのを躊躇してしまう。

勘違いするメディアは「全部馬主が責任持つべきだ」「ファンが競馬を楽しんでいるんだから、ファンが金を出すべきだ」と、言ってしまいます。

しかし日本の馬券の売上は、国庫納付金として、また地方自治体への交付金として、国民に還元されているわけで、その観点では国民全体が責任の対象となってもおかしくはありません。

さすがに国民がというのは無理がありますが、日本は優秀な主催者が2団体あり、馬券の売上も潤沢。

香港ジョッキークラブは、売上を地域に還元し、シャティン競馬場の近くには、香港ジョッキークラブプール、体育館、その他諸々の施設があります。

同様に、馬券売上の一部を引退馬に割くこともできるし、実際に予算は組めると伺ったこともあります。

あとは行動。追いつかないのはここです。

先日、日経テレ東大学というYouTubeチャンネルで、尊敬する経営学者の楠木建さんが紹介された自著「絶対悲観主義」。実は、私の思想も同じで、ある時を境にして、ずっと悲観主義で生きてきました(笑)

 

そして、成功している起業家たちの成功の秘訣の結論は、「挑戦し続けること」。つまり、ほとんどの事業が失敗します。アメリカでは、30年生き残る企業は、全体の5%以下と聞いたことがあります。それだけ、永続性の高いビジネスを行なうことは難しい(もちろん前向きな買収に会うこともあります)。

楠木先生の著作の帯に書いてあるのは、「心配するな、きっとうまくいかないから」。

あれこれ考えてこねくり回しても、基本は失敗するのです。日本人の悪い癖で、やる前から考えすぎて、終わらせてしまいます。

でも、トライし続けたら、必ず日本ならではの引退馬対策が立てられるはずです。

もちろん、日本社会や各団体における「失敗=失点&出世に響く」というような考え方を、排除しないといけません。ただ、未知の世界の扉を開けるためには、失敗を恐れないことが大事です。どうせ、うまくいかないから。
(種牡馬として大成功したマリブムーンや、マクリーンズミュージックなんて、いい例でしょう?)

可能であれば、この「どうせうまく行かない」事業を引き受けてみたいと、勝手にワクワクしています。遠慮なく、失敗を恐れることなく、みんなでブレストして、行動してみませんか?